若林隆久@経営×教育×地域×育児

高崎経済大学地域政策学部准教授の若林隆久のページです。経営学、組織論、ネットワーク論を専門とする研究者・大学教員が、研究、教育、学内外での活動、本・論文、地域、子育て、などについて書いていきます。

なぜ大学はオンラインで授業を行うのか①:個人と組織の意思決定の違い

この記事の内容は執筆者個人の認識や考えであって、所属組織のものとは異なります。
※ 執筆者の専門分野は経営学であり、感染症・医療をはじめとしたそれ以外の分野の専門家ではない点にご注意ください。

前期に引き続き2020年度後期もオンラインで授業を中心に授業を実施する大学は多いようです(そうでない大学もあります)。
世間では大学のオンライン授業への批判もありますが、改めてなぜ大学はオンラインで授業を行うかについて整理していきたいと思います。
自分の現時点の認識を整理して記録するという目的が大きいので、目新しい内容はないかもしれませんし、認識が間違っていることもあるかもしれませんのでご注意ください。
また、特定の大学を想定しているわけではなく、大学一般(特に、比較的都市部にある文系大学)を念頭においています。

大前提としての感染症対策

言うまでもないことですが、オンラインを中心として授業を実施している理由は感染症対策です。

「なぜそんな当たり前のことを?」と思われるかもしれませんが、世間での大学へのオンライン授業への批判もありますし、SNS上で「オンライン授業を継続するのは本当に新型コロナが怖いと思っているからなのだろうか」というような大学生らしきアカウントによる意見も目にしたこともあり、改めてなぜ大学がオンラインで授業を行うのかについて確認する必要性を感じました。

上述の意見に直接的に回答すれば、新型コロナウイルスという感染症に対して怖いと思っていますしリスクを感じていることは間違いありません。ただし、その意味するところは個人とはやや異なる可能性が高いです。

恐怖やリスクの感じ方には個人差がある(特に、今回の新型コロナウイルスのようにわからないことも多い場合は)ことを前提に、そもそも個人と組織では意思決定について大きく異なる点に注意しないと、大学がどうしてその意思決定に至っているのかを理解しづらいかもしれません。そこで、まずはその点について確認したいと思います。

リスクの感じ方には個人差がある

上記のような意見が出る背景には、①発言者本人はリスクをあまり感じていないということがあるのだと思います。リスクをどのように感じるかは個人の問題なので正否はないのですが、同じような立場の人が多数いる場合にみんなが同じように感じているかはわからないという点には注意を要します。大学生であっても、本人が高齢であったり(大学生は20歳前後に限定されているわけではない)基礎疾患を抱えていたりして重症になる確率が高くリスクを強く感じているという人もいるでしょう。あるいは、接触の多い家族その他の人にそのよう人がいてリスクを強く感じるという場合もあります。もちろん、客観的には同じ状況であっても、どの程度の恐怖やリスクを感じるかは個人差があります。楽観的な人もいれば、悲観的な人もいるということです。

個人と組織の意思決定の違い

個人と組織では意思決定において考慮すべき範囲が異なります。様々な違いがありますが、ここでは関係者の規模と多様性について取り上げたいと思います。

上記のような意見が出る背景には、②リスクが小さいと思われる若年者が中心である大学生について新型コロナウイルスを過度に警戒する必要はないのではないかという考えがあるように思います。しかし、若年者が重症となったり死亡したりする可能性が小さいということが事実だとしても、関係者の人数が多く、また、多様な関係者がいる大学では感染症の脅威を軽視した意思決定はしづらいです。

ひとつ目の違いは関係者の規模です。個人の場合にはそのような判断はありえるのかもしれません(感染症の場合は個人の行動が周囲に影響を及ぼすので本当は駄目ですが)。しかし、大学には千人あるいは一万人という単位の学生がいることを踏まえると、感染が拡大した場合、割合としては少なくてもそれなりの人数が重症になってしまう怖れがあります。人数や割合が少ないから良いと判断できるものでもありません。

二つ目の違いは関係者の多様性です。普段あまり意識することはないかもしれませんが、大学は学生だけが関わっているわけではない点に注意しなくてはいけません。特に、今回の場合は感染症ですので、間接的な関係者にも影響を及ぼすことになり、配慮が必要になります。
学生の保護者や保護者や家族は代表的な関係者でしょう。大多数の大学生自身がリスクの小さい若年者であっても、その保護者や家族となると話は別になってきます。感染症なので大学生が接触する人という括りで考えると、アルバイト先や周辺地域の市民も影響が及ぶ関係者となることには注意が必要です。
また、大学では教職員が働いており、雇用者として彼らの安全についても考えなくてはいけません。大学生に比べて年齢層が高く、同居家族の有無やその構成などもさらに様々です。

このように考えてくると、自分自身の考えに基づき自分に関して決定を行う個人と比べて、多数かつ多様な関係者が存在し、自らの決定が彼らに対して影響を及ぼしてしまう組織(大学)では、考慮したり配慮したりすべき対象が多岐にわたることがわかります。単純に多数決で決めて、しばしば弱者である少数派の意見を無視することもできません。そのため、消極的と取られてしまうような意思決定になることもあるかもしれません。いずれにせよ個人の立場で素朴に考えて決定する場合とは、意思決定の過程や結果が異なりうるということには留意しなくてはいけません

「なぜ大学はオンラインで授業を行うのか」ということに関しては様々なトピックが関係しますが、最初におさえておくべきで個人と組織の意思決定の違いについて触れました。次回以降は、オンライン授業は楽か、設備上の制約、感染症から見た大学の特徴などを取り上げたいと思います。