若林隆久@経営×教育×地域×育児

高崎経済大学地域政策学部准教授の若林隆久のページです。経営学、組織論、ネットワーク論を専門とする研究者・大学教員が、研究、教育、学内外での活動、本・論文、地域、子育て、などについて書いていきます。

なぜ大学はオンラインで授業を行うのか②:オンライン授業は楽どころか大変!?

この記事の内容は執筆者個人の認識や考えであって、所属組織のものとは異なります。
※ 執筆者の専門分野は経営学であり、感染症・医療をはじめとしたそれ以外の分野の専門家ではない点にご注意ください。

大学がオンラインを中心に授業を行うことを批判する人の中には、大学あるいは教職員にとってオンライン授業が楽だから大学がオンライン授業を実施すると思っている人もいるようです。そこで、今回は「オンライン授業は楽か?」というトピックを取り上げたいと思います。
結論から言えば、記事のタイトルにもある通り、しばらくはオンラインで授業を行うことは楽どころか大変だろうということです。

授業以外への新型コロナウイルスの影響

前提としておさえておきたいのが、授業以外の様々な事柄への新型コロナウイルスの影響があるということです。

学生からすると大学が行っていることはほぼすべて授業(+教務関連や学生関連)であるように見えてしまいますが、それ以外にもたくさんの業務があります。教職員にとって授業がひとつの重要な仕事である一方で、研究や入試や社会貢献といったその他様々な重要な仕事(内部運営も含む)を抱えていることも事実です。新型コロナウイルスによって、授業についてはオンライン化という大きな影響を受けていますが、それ以外の仕事についても大小様々な影響があり、その対応に追われています。

また、学生やそれ以外の人々と同様に、大学の教職員にも個人の生活があります。生活面は人それぞれですが、新型コロナウイルスの影響を受けてこれまた大小様々な影響を受けています。

何が言いたいかというと、急な対応でオンライン授業を実施することだけでも難しいのですが、それ以外の仕事および生活でも様々な困難を抱えてしまっているために、より一層その対応が難しくなっていることを念頭に置く必要があるということです。

個人も組織も新しいことを行うのは苦手

さて、これまでは教室での授業を行ってきた大学・教職員が、楽をするためにオンライン授業を行うことが大変かどうかという話に移りたいと思います。

まず、一般にこれまで行ってきたことを変えることは、個人にとっても組織にとっても苦労・苦痛を伴うことである点をおさえておきます。みなさんも思いあたるところがあるかもしれませんが、個人は身につけた習慣からなかなか脱却できませんし、新しいことを覚えるのは億劫です。これは組織であっても同じで、学習棄却(unlearning)は難しいことですし、組織の変革(change)には抵抗がつきものです。ですので、私が見聞きする範囲内ではありますが、教室での授業を継続する方が楽だと感じる人が圧倒的に多いと思われます。授業以外での困難も抱えている中で、大学にしろ教職員にしろ、オンライン授業という新たな取り組みに対して、良くも悪くも前向きになることはなかなか難しいようです。言い換えれば、楽をするためにオンライン授業が選択されるということは考えづらいということです。

急な対応の2020年度前期

新しいことを行う際の難しさのひとつは、ノウハウがなくどのように行えばよいのかがわからないという点にあります。また、場合によっては設備も含めてこれまでとは異なる準備が必要になるということもあります。

ご存知の通り、今回の場合はあまりにも急な予期せぬ授業のオンライン化であったため、十分な準備はできていません。そのことが質の低いオンライン授業を生み出してしまい、様々な批判・不満につながっているのかもしれません。この記事のテーマに関していえば、質が低く十分な授業内容が提供されないから、楽をしている(手を抜いている)と思われてしまっているかもしれないということです。ただ、ノウハウも設備も整わない中での急な対応ということで、質が低いと感じられてしまう授業ですらかなりの手間や時間がかかっている可能性があることは知っておいてもらえればと思います。

しばらくは変わらない状況の中で頑張る 

さて、それでは今後のオンライン授業やそれを実施する大学・教職員を取り巻く状況は変わるでしょうか。個人的な予測は、ある程度の改善は見られるかもしれないが、多くの大学において劇的な改善にはかなりの時間がかかるであろうというものです。これはオンライン授業に適応する学生や、新しい生活様式に順応していく社会一般の人々と同じような状況かもしれません。

あまりにも急な対応であった2020年度前期と比較すれば準備期間はあるものの、オンライン授業のノウハウの蓄積にはまだまだ時間がかかりそうです。もちろん、オンライン授業を一度も実施したことがない状態と、半期あるいは1年間実施したことがあるという状態は大きな違いです。しかし、教室での授業に関しては大学全体で十年単位あるいは百年単位での蓄積があると考えると、オンライン授業のノウハウの蓄積はまだまだ始まったばかりと言えるでしょう。技術の発達やそれに伴う情報共有の質・量の向上もあるのですが、少し長い目で見る必要がありそうです。

また、設備については、時間的な余裕は徐々に生まれるものの、設備を運用する人員も含めて十分な予算が確保できない大学も多いかもしれません。ここ一年程度の間に、運用する人員も含めて配信・収録用のスタジオやLMS(Learning Management System、学習管理システム)などを整えられない大学は少ないように思われます。

 

書いていて「後期の準備も大変だな」とか「自分の設備・環境を整えないと」などと思えてきたので、終わりにしたいと思います。結論としては、「オンラインで授業を行うことは楽どころか大変ですが、感染症対策のためには致し方ないので、しばらくは変わらない状況の中で試行錯誤しながら頑張るしかない」ということです。