若林隆久@経営×教育×地域×育児

高崎経済大学地域政策学部准教授の若林隆久のページです。経営学、組織論、ネットワーク論を専門とする研究者・大学教員が、研究、教育、学内外での活動、本・論文、地域、子育て、などについて書いていきます。

なぜ大学はオンラインで授業を行うのか④:教室での授業とオンライン授業をどう並存させるか(受講環境編)

この記事の内容は執筆者個人の認識や考えであって、所属組織のものとは異なります。
※ 執筆者の専門分野は経営学であり、感染症・医療をはじめとしたそれ以外の分野の専門家ではない点にご注意ください。

前回の記事では、ソーシャル・ディスタンスを確保した場合、多くの大学では教室定員という制約もあって全面的には教室での授業を行えないことを述べました。すると、できれば教室での授業も実施したいという立場であれば、教室での授業とオンライン授業を並存させることになります(すべての授業をオンラインで実施するという選択肢もあります)。

そこで、今回は「教室での授業とオンライン授業の並存」というトピック、中でも学生の受講環境や移動の問題について確認したいと思います。

教室での授業の前後のオンライン授業をどこで受けるか問題

既に関係者の多くが認識していることですが、教室での授業とオンライン授業が混在していると、教室での授業とリアルタイムのオンライン授業が前後にある場合、どこで授業を受けるのかという問題が生じます。教室での授業はもちろん教室で受講するので、オンライン授業をどこで受けるのかという問題です。学生がオンライン授業を受ける環境を整えている場所は自宅であるとすると、多くの学生は授業間の短い休み時間では自宅まで帰ることは難しいということです。

大学内での受講とその問題点

自宅以外のどこでリアルタイムのオンライン授業を受けるかという候補の第一は大学内でしょう。その場合、学生が利用できるPCなどのデバイスやインターネット環境が十分に確保できるのかということがまず問題になります。当然、ソーシャル・ディスタンスの確保、使用する場所の換気、PCなどのデバイスの共有などに関する感染症対策が必要になります。また、もともと感染症対策でオンライン授業を実施しているので、教室での授業によって学生を大学に通学させ、前後のオンライン授業の受講でも大学内に滞在させるというのはやや本末転倒になってしまうということも問題です。

自宅・大学以外での受講とその問題点

PCなどのデバイスとインターネット環境があればリアルタイムのオンライン授業は受講できるわけなので、大学周辺の適当な施設を利用してもらうということも可能性はなくはないです。ただし、感染症対策ということも含め、大学近くの適当な施設を利用することを前提としたり推奨したりすることは望ましくないでしょう。
また、大学内でも同様なのですが、中には発話を必要とするオンライン授業もあるため、その点も含めて環境の確保ができるのかという点が問題になります。

学生が1人1台のモバイルPCとモバイルルーターを用意できるか

個々の大学によって状況は様々で程度問題でもあるのですが、大学内のPCやインターネットを利用できないわけではないが、多数の学生に対しては感染症対策という面も含めて十分な環境を提供できないという大学が多いのではないかと予想します。この問題への対策として、多くの学生が1人1台のモバイルPCとモバイルルーターを用意できれば、いろいろな対策の可能性が生まれかなり状況を改善できるのではないかと思います。ただ、大学や社会からの支援も含めてどの程度の割合の学生が環境を整えられるかという点も大学により様々で、全員が用意できることを前提にはできません。

一方、学生の立場で何とか用意できるのであれば、特に持ち運びできるPCの用意をお勧めします。スマートフォンタブレットも便利ではあるのですが、(時にはスマートフォンタブレットと組み合わせて)しっかりとPCを使いこなせることによるメリットは大学における学習に留まらずとても大きいです。

授業の形態や時間割による対処

教室での授業とオンライン授業の並存に伴い発生する受講環境の問題に対して、授業の形態や時間割による対処はできないでしょうか。以下、思いついた三つの対処について述べてこの記事を終わりにしたいと思います。

※ なお、自身の状況に合わせつつ学生が履修の仕方を工夫するという対処もありえますし実質的に行われることかと思いますが、必修科目の存在や選択科目といってもどこまで実質的な履修の自由度があるのか(十分な科目数が提供できているのか)といった問題や、そもそも授業の形態によって履修が制約されることの是非という問題があります。

オンライン授業をすべてオンデマンド型にする

ここまでそれほど強調はしてきませんでしたが、リアルタイムのオンライン授業であるからこそ、教室での授業と前後した場合に受講環境の問題が生じるのです。すべてのオンライン授業を時間割どおりに受講しなくても差し支えないオンデマンド型の授業としてしまえばこの問題は生じません。

この対処の問題点は、特徴や考えが様々な科目・教員に対してオンデマンド型の授業を強制できるかという点ははなはだ心許ないです。

時間割の調整・変更をする

教室での授業とオンライン授業が混在しているからこそこの問題が発生するのであり、ある曜日は教室での授業だけにしたり、午前中はオンライン授業だけにして通学の時間を確保した上で午後を対面の授業だけにしたりするといった、時間割を調整・変更することによる対処も考えられます。

しばしば見かける対策でもありますが、大学の授業は非常勤が担当している割合が高く、担当教員の確保という面からそこまで大幅な時間割の調整・変更は現実的には難しいということがありそうです。また、教室を利用できる曜日や時間帯を絞ることで教室が足りなくなったり一時に大学に滞在する学生数が多くなったりしてしまうなどの問題も考えられます

教室での授業もオンラインでの受講を可能とする

教室での授業を何らかの形でオンラインでも受講することを可能にするという対処も考えられます。履修状況も含めた自身の状況に応じて、同じ授業を教室で受講するかオンラインで受講するかを学生が選択できるということです。これにより学生の履修に制約がかかることはなくなります。また、教室で実施される科目を受講するために学生が大学に通学することを強制せずに済むという良い点もあります。世の中の情報を見ていると、これは多くの大学で採用される方法かもしれません。

この対処は、今回取り上げている受講環境の問題を解決するという点ではかなり現実的なのですが、一方で授業の運営や内容に対して制約がかかるという点で問題が生じるかもしれません。この点については改めて考えたいと思います。