若林隆久@経営×教育×地域×育児

高崎経済大学地域政策学部准教授の若林隆久のページです。経営学、組織論、ネットワーク論を専門とする研究者・大学教員が、研究、教育、学内外での活動、本・論文、地域、子育て、などについて書いていきます。

身近な権限委譲

ディスカッション・テーマ:
「経営戦略として権限委譲を取り入れる目的」
「小企業が大企業の苦手な分野にどう取り組むか」


2019年初回のプレゼミ(2年生の自主的なゼミ)では、「企業が経営戦略として権限委譲を取り入れる目的は何か」と「自転車店を事例に、小企業が大企業の苦手な分野にどう取り組むか」の2つについてディスカッションしました。

キスト:マイケル・マッツェオ、ポール・オイヤー、スコット・シェーファー(2015)『道端の経営学:戦略は弱者に学べ』ヴィレッジブックス. 第9章「権限を委譲する」(pp. 283-316). 第10章「大企業(ビッグボーイ)と戦う」(pp. 317-348).

Overview(概観)

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1コマで2つのテーマはさすがに時間が足りない感もありましたが、それなりにまとまった整理ができたようにも思います(ホワイトボード参照)。

権限委譲については、一見するとよいことに思えそうですしそう論じられがちですが、そうとも限りません。メリットとデメリットをおさえた上で、権限委譲すると何が生じるのかや、なぜ権限委譲をしようと思ってもできないのか、についてしっかりと考えることになります。

小企業が大企業と戦うことについては、基本的にはヒト・モノ・カネといった資源を大量に投入できる大企業が有利であるという前提をおさえた上で、そのハードルをいかに乗り越えられるか(くぐり抜けるか?)に知恵を絞ることになります。

Pick up:身近な権限委譲

権限委譲という硬い言葉が出てくると、学生だと距離を感じてしまうかもしれません。
しかし、人に何かを任せることと考えれば、類似の事例はたくさん転がっています。

例えば、サークルで新たに新入生歓迎のバーベキューを開催するとします。
サークルの代表(3年生)は、2年生の新歓担当にその企画を任せます。

この時、場所や購入する食材・飲料のひとつひとつのすべてについて相談を受けて逐一許可するのではあまりにも手間がかかってしまいます。
そこで、全体の予算や一品あたりの限度額を決めておいて、その範囲内であれば特に許可を得ることなく担当者が購入できるようにします。
これが決裁権限の設定です。
ここで、予算や限度額を超えた支出は絶対にできないというわけではありません。相談の上で必要と認められれば、許可がおります。

この時、新歓担当にどのように任せるかがポイントになります。
評価基準を、「費用を抑えること(金額の安さ)」だけや、「できるだけ多くの新入生に参加してもらうこと(新入生の参加人数)」だけとしてしまうと問題です。

新歓の目的を一概に決めつけることはできませんが、組織としてみれば「サークルの活動に興味を持ってくれそうな新入生にできるだけ多く参加してもらい、バーベキューを楽しみつつもサークルの活動やメンバーに対する理解を深めてもらった上で、サークルに入って活動・定着してもらう」といったところではないでしょうか。

安さだけを追い求めればバーベキューの満足度が下がりサークルに入ってもらえないかもしれません (上級生のお財布には優しいかもしれませんが)。
参加人数だけを追い求めて大盤振る舞いをすると、サークルにこれっぽっちも興味がないにもかかわらずバーベキューだけを楽しみに来る人たち(いわゆる新歓荒らし)を集めるだけの結果に終わるかもしれません。

ですので、きちんと目標を共有した上で、仕事を任せたり権限委譲をしたりしなくてはいけないということになります(安さや参加人数が重要でないと言うわけではありませんが)。

Pick up:海外の慣用表現やくだけた表現

第10章では、タイトルの大企業にはビッグボーイというルビが振られており、小企業のことを指すリトル・ガイという言葉が使われています(p. 348)。
第1章ですが、スターバックスのグリーンジャイアント(緑の巨人)という呼称が出てきます(p. 41)。
こういった表現は、日本にいてはなかなか触れる機会がありません。

外国語から翻訳された文献では、カタカナの固有名詞が多くて馴染みがなかったり読みづらかったりということもあるかもしれません。
しかし、海外と日本との共通点・相違点や、教科書では習わないような慣用表現やくだけた表現が出てくる点は、ぜひ楽しんで読んでください。